複式簿記とは

商売をするうえでお金の出入りを正しく把握することは必須です。
ただ、お金がいつ出入りしたかを把握するよりも、いつ出入りしたかとその原因まで把握できれば正確な分析を行うことが出来ます。
お金の流れを正確に把握することが出来るようにするための仕組みが複式簿記です。
そこで今回は複式簿記についてお話していきます。

複式簿記とは


複式簿記とは、お金の動きを「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」の二つの面で記録する帳簿のつけ方を指します。
たとえば、何かを売って現金が入った場合には、増えた現金が「借方」に、売ったことで生まれた収入(売上)が「貸方」に記されます。
このように二方向で記録をつけるので、取引の原因と結果がはっきりし、資金やモノの流れを正確につかみやすくなるのです。
一方で、単式簿記では「入ってきたお金」「出ていったお金」といった一方向の情報しか残らないため、どこからお金が増え、何が原因で減ったのかを細かく把握しにくいという特徴があります。

では、なぜこうした複式簿記が考え出されたのでしょうか。
歴史をさかのぼると、14世紀頃のイタリア・フィレンツェやヴェネツィアなどの都市国家で行われていた商取引がきっかけとされています。
商人たちは遠い地域との取引を活発に行っていたため、より正確な財産管理が求められ、その結果として複数の要素を同時に記録できる複式簿記の概念が生まれたといわれています。
こうした起源をたどると、複式簿記が世界規模の貿易とともに発展してきたことがわかり、単なる記帳方法ではなく歴史の一端でもあることを感じられるでしょう。

 

複式簿記の基本構造


複式簿記の仕組みを理解するうえで大切なのは、借方と貸方という二つの欄を常にセットで考えることです。
借方は「お金やモノが入ってきた側」、貸方は「お金やモノを提供した側」とイメージするとわかりやすいかもしれません。
たとえば文房具を買った場合には、借方に「文具費」や「消耗品費」が記入され、貸方には「現金」や「預金」など、支払われた資金が書かれます。
このように二面から取引をとらえることで、後から振り返ったときになんのためにいくら支払ったのかということを正確に知ることができます。
さらに将来的には、複式簿記で蓄積したデータを使うことで資金繰りを読み解き、経営の方向性を考える手助けにもなります。
どの時期に収入が多く、いつ支出が集中しやすいのか、あるいは在庫や資産が過剰になっていないかなど、普段は見落としがちなポイントを定期的にチェックできるからです。

実際に取り入れている方はごく少数だと思いますが、家庭でも、複式簿記によって支出の傾向や貯蓄のペースを可視化すれば、家計を改善するきっかけが得られることもあります。
日本の家計では食費や住居費、教育費などが大きな支出となりがちですが、複式簿記を取り入れることで具体的にどうカットし、どこを工夫すればいいかが明確になる可能性があります。
このように、複式簿記は単なる記録作業にとどまらず、家計や経営をより高い視点で見直す大きな手がかりにもなるのです。

 

確定申告で役立つ複式簿記


確定申告では、所得や経費の内容を正しく申告する必要がありますが、複式簿記を導入することで、その正確性がぐんと高まります。
これは、日々の取引を「借方」と「貸方」に分けて記録するため、経費のつけ忘れや売上の二重計上などが起きにくくなるからです。
さらに、大きなメリットとして青色申告特別控除があります。
国税庁の情報によれば、一定の要件を満たした複式簿記で帳簿を作成し、正しく届け出を行うことで、最大65万円の所得控除を受けることができる仕組みです。
たとえば、年収が300万円の個人事業主の場合、青色申告特別控除によって実際に課税される所得が235万円になれば、その差額にかかる税金が減ります。

つまり、複式簿記に取り組む手間と時間をかけても、その分だけ節税の恩恵を得られる可能性が高まるわけです。
さらに、帳簿の内容が正確であれば税務署とのやり取りもスムーズになり、余計なトラブルを回避しやすくなります。
こうした一連の手続きが大変そうに感じられても、最近ではクラウド会計ソフトを活用することが一般的になってきました。
取引内容を入力すれば、自動的に複式簿記の形で帳簿が作成される仕組みも増えていますので、最初のハードルさえ乗り越えれば、思ったよりも手軽に導入できるはずです。

 

まとめ


複式簿記は、借方と貸方の二つに分けてお金の動きを記録するシンプルなしくみでもあり、長い歴史の中で改良を重ねられてきた伝統的な方法でもあります。
日々の帳簿づけが細かくなる分、節税メリットや経営改善のヒントを手に入れやすいのが大きな魅力です。
特に確定申告時には、青色申告特別控除などの制度を活用するうえでも大いに役立つことでしょう。
ぜひこの機会に、複式簿記の基本を理解しながら、家計やビジネスに役立つ知識を身につけてみてはいかがでしょうか。

【参考資料】
国税庁タックスランサー:No.2070 青色申告制度